ただ、ボラを愛でたくて。BL感想日記

ただ、ボラを愛でたくて。BL感想日記

ミーハーとマイナー上等。ニアもブロマンスもニオイ系も好き。読んだBL感想をネタバレなしでレビューします。

素人探偵と刑事のもどかしい欧米BLミステリー「アドリアン・イングリッシュ 悪魔の聖餐」感想

文庫本にして500ページ近くある超大作、いやあ読み応えがあった! 

 

欧米BL(M/M)小説の翻訳レーベル、モノクローム・ロマンス文庫の人気シリーズ第3弾。ジョシュ・ラニヨンの「アドリアン・イングリッシュ 悪魔の聖餐」。

 

LAでミステリ専門のクローク&ダガー書店を営む傍ら、素人探偵としての才覚があるアドリアン・イングリッシュ(受)と、“クローゼットに隠れた男”で刑事のジェイク・リオーダン(攻)のもどかしい恋愛模様と、骨太のミステリが両方楽しめる、――ブロマンスや匂い系の探偵小説が好きな人に全力で推せる作品だ。

 

 この頃、私のなかでアガサ・クリスティー有栖川有栖など、ちょっとした本格ミステリブームが起きている。シリーズ前作を読んでから、とある理由ですっかり日が空いてしまったのだけど、骨休みに(…といってはなんだが)、ミステリと萌えの同時供給を行いたく本書を手に取った。

 

さて、とある理由というのが、前作まででジェイク・リオーダンへの怒りが収まりそうにないことだ。彼の煮え切らない、もはや身勝手ともいえる“クローゼットに隠れた男”ぶりには「アドリアン! よりにもよって、なぜこいつなんだ!!!」という感情しか湧いてこない。

 

アドリアンは自分がゲイであることをオープンにしているが、ジェイクは違う。むしろそんな自分を心の底から嫌っていて、「女を愛する男」でいたいと願っている。そんなふたりだから、ギクシャクすることも多くて、ついにこの3巻では「それって、人としてどうなのよ…」ってことをジェイクがやらかします。価値観は咎めることじゃないにしても…おいこらジェイク!

 

しかしどれだけ外野の心が荒れようと、肝心なのはアドリアンその人だ。恋は盲目とか、惚れた弱みとか言うけれど、ホント、人を好きになるってどうしようもないんだな。来るかも分からないジェイクのために、でっかい冷凍ステーキを買ったり、何かあったら真っ先に思い浮かんで、話したくなったり。好きになるって理屈じゃないから、もう全部が切なくて、仕方がない。

 

外野のハートを余計に燃え上がらせる傷心気味のアドリアンの前に、いい感じの男性も現れて、続く第4巻、ふたりは一体どうなっちゃうの~!? というところで本作は終了します。ああ、どうなるのさ!

 

もちろん、本作でアドリアンとジェイクが謎を追うカルト集団による猟奇的な連続殺人事件もスリル満点だった。一見、謎が謎を呼んでいる…んだけど、フタを開けてみると、それぞれの登場人物たちが自分の思惑のために事態をややこしくしているのが面白い。

 

例えば、アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」と比較してみると、「そして~」は物語の中心に謎があって、登場人物たちはその謎のために動いている。一方、本作は当たり前ではあるけど、人が中心にいて、それぞれが動くから、謎が生まれてくる感じ。どちらもミステリとして文句なしに面白いけど、謎に取り組むか、人を読むかという違いがある。

 

本作のもうひとつの見どころとして、巻末の三浦しをんによる解説は絶対に外せない。三浦しをんは過去にBLに特化したエッセイ本(シュミじゃないんだ)を上梓しているだけあって、ものすんごい熱量のBL考察が読める。

 

“しをん節”と言われる、笑えてライトな読み口の解説かと思いきや、アドリアンの切ない独白を引用し、人とは、孤独とは、マイノリティとは――まるで美しい短編を読んだくらいの読後感が残るすんばらしい解説であった。私のようにジェイクへの怒りがおさまらず、シリーズ完読を諦めた人でも、この作品への愛に溢れた解説は読んでおいて損はない。

 

そして不思議と、こうして書いてみると、ジェイクへの怒りが収まってきた私がいる。どうしようもない、ふたりの物語を最後まで見届けたいと思う。